ふとしたきっかけで、お知り合いになった先輩リケジョで一級建築士の久坂美津子さんにライフストリー&お勧め本をお伺いする機会がありましたので、ご報告します。
久坂美津子さんは、武蔵野市にご自身の設計事務所を構える一級建築士さんです。住宅建築、リフォーム設計監理、店舗設計監理などを中心にご活躍されています。特に、日本の古民家を連想するような、また、自然素材を取り入れた建築を得意とされています。また、働きながら、女手一つでお子様二人を成人させたといういわゆる働く女性の先駆的な方、リケジョの大先輩でもあります。
久坂さんは、桑沢デザイン研究所でインテリアデザイン学ばれ、卒業後、店舗デザインされていたのが、現在のおしごとの出発点です。店舗デザインを手がけるうちに、自分の満足したもの、作りたいものをつくるためには、建築士の資格も必要だということで、働きながら、子育てしながら勉強をされ、二級建築士、一級建築士の資格をとり、建築士として活躍されるようになりました。
当時は、社会全体に、まだ子どもを育てながら働くという環境が整っておらず、妊娠が分かるとそれまでチーフとして任されていた仕事からはずされたり、降格になるなどといったことがあり、また、職場の上司が、「つが取れるまで(九つまで)、子どもは親が育てるべき」という考えをお持ちであったため、勤め続けることができなかったということと、店舗デザインの仕事は工事が夜になることが多いため、やはり子育てしながらの継続が難しいということもありました。離婚後は独立し、子どもを育てながら仕事を続けるのに自宅を事務所にスタートしました。独立してからは、それまでのつながりから、色んな人から設計・デザインの仕事を請け負うようになり、自宅で仕事をすることがでるようになり子育てと仕事との両立が可能となりました。その後、下請けの仕事はやめることで、自分の仕事も入るようになってきて現在の地位を確立されていきました。
建築のお仕事をやりたいと思われたきっかけは、中学生のころに、お母様の婦人雑誌の付録についていた大熊喜英さんの住居のスケッチ画だそうです。そこに描かれていた玄関や部屋のスケッチが大変すばらしく、惹き付けられたそうです。その付録は大事にとっておかれたそうで、最近までお持ちだったそうです。
また、映画「女子大学生 私は勝負する」の中で女優の原知佐子さんが建築デザイナーを目指す女子大生を演じたのにも憧れたそうです。
※大熊喜英:早稲田大学建築学科卒業後、大成建設に入社。父は、国会議事をはじめ、多くの官庁舎の設計に関わった明治~昭和戦前の建築界の大物・大熊喜邦。1950年代から民家をモダンに解釈した作風で、住宅作家として脚光を浴びた。
実は、久坂さんは中学卒業時には建築家になりたいと思っていたものの、お父様が厳しく女は商業科がいいということで、高校は商業科に進まれたので、ある意味、文系女子でした。当時は、建築の夢はあきらめ、文を書く人にでもなろうかとも思われていたそうですが、高校卒業のころにはどうしてもインテリアデザイナーになりたいという思いで、桑沢デザイン研究所へ進まれたのです。桑沢デザイン研究所での学生生活は刺激的で、講師陣もすばらしく、課題も多く大変だったそうですが、充実した学生生活を送られました。ちなみに、商業科で簿記などの勉強をしたことは、独立して事務所を構えるようになった時に、決算なども自分でできるため大変役に立っているたそうです。どんなことも勉強することに損はなく、今ではお父様に感謝してらっしゃるそうです。
「建築」の分野は、理系的要素とアート的な要素のある分野です。私の卒業した某大学理工学部の入試にも、建築科だけはデッサンがあってちょっと違うなと憧れたものです。建築士になるためには、国家試験に合格しなければなりませんが、そのルートには色々あります。久坂さんのように芸術系の方から進む方、工学部の建築学科から進む方など様々です。ですから、建築系が理系か文系かという切り分けは、ある意味ナンセンスかもしれません。また、建築といっても分野は広いので、それぞれ最終的に目指すものも異なるともいえます。久坂さんに、芸術系と工学系の違いをお伺いすると、何かを造る時の発想が、、自分はインテリア出身なので室内から外へという発想しているが、建築工学系の方はまず外から発想しているのかなと思うとのことでした。
建築系を目指す女子中高生の皆さんの中には、理系クラスに所属していて数学が苦手で悩んでいる人がいるかもしれません。でも、久坂さん曰く、建築家を目指す上で大事なことは、「自分がやりたい!」「何かを生み出したい!」という気持ちだそうです。建築士の仕事は、「何もないところから空間を造る仕事」「人に心地よい空間を提供する仕事」だということを忘れないでほしいとのことです。ですから、数学ができるできないよりも大事なことは、空間を感じる力、把握する力があるかです(この辺りはかなり芸術的な感じです)。また、お客さんに気持ちいい空間を提供するためには、お客さんのニーズをつかむことが大事なので、「国語力」や「洞察力」が非常に大切で、人とのコミュニケーション能力も大事になってくるとのことです。例えば、「明るい部屋」といっても、どのような明るさのことを指しているのかといったことは、お客さんとのコミュニケーションの中から把握していかなくてはならないのです。
数学については、建築士の試験のときには構造計算などの分野で必要ですが、それは試験をクリアするための勉強をすればいいことであり、実際の現場で体得できるようにもなるし、また、分業もなされているのでその部門だけを専門家に任せることもできるのだそうです。ですから、数学が苦手でも大丈夫だそうですよ。
また、建築は、空間を造ることなのですが、色々制約条件があるわけで、そこにうまく「おさめる」ことが重要で、そのおさめ方にその建築家の特性や力量が反映されるのだそうです。ですから、ベテランともいえる久坂さんでも、旅行に行っては、色々な建築物や民家などをみて、写真からは得られないような空間のおさめ方や、建具や設備の使い方などを勉強する日々だそうです。また、写真でよくても、実際に現地に行ってみるとローケーションとのミスマッチなどにがっかりすることもあるそうです。そうしたものは実際に足を運んで体感しないと得られないものです。
久坂さんから、建築を目指す女子中高生へのメッセージは、とにかく「空間を体感しろ!」です。ご自身も高校時代には、周遊切符などを活用して、全国へ行って色んな空間を感じる旅をされたそうです。「一人で空間を感じる」時間を大切にしてもらいたいそうです。
今後、やりたいことをお伺いすると、店舗などは時代の趨勢でずっと残すことはできないので、逆にずっと残るものを設計したいことと、建築にこだわらず自分だけの作品をつくることだそうです。インタビューさせていただいた事務所も、モデルルームのようになっており、とても素敵でした。
※(第一回トステム設計コンテスト http://tostem.lixil.co.jp/biz/tasc/1st/#kitchin)
そんな久坂さんのお勧め本は、「運命を創る (人間学講話) 安岡 正篤 (著)」と、 「ゼン・マクロビオティック―自然の食物による究極の体質改善食療法 桜沢 如一 (著), 村上 譲顕 (翻訳) 」です。両者とも、哲学的なものではありますが、自分と向き合うことができ、心が洗われるような著書だそうです。
特に、ゼン・マクロビオティックでは、命あっての勉強や仕事なので、自分の体を大切にすること、その中で食べ物も大切に考えてほしいとの思いからお勧めするそうです。
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