らっしいさん(製薬メーカー 動物用医薬品・飼料の学術・開発)

神と悪魔の薬 サリドマイド

トレント・ステフェン、ロック・ブリンナー著/日経BP社

本の内容紹介

妊婦さんのつわりを軽減する薬として売り出された「サリドマイド」。しかし、服用者から生まれた子供たちには、腕がアザ ラシのように短いなどの奇形が多発した! 20世紀最大の薬害事件である「サリドマイド事件」の顛末を中心に描いている。しかしその後、この薬はハンセン 病やある種のがん、自己免疫疾患などに有効であることがわかり、今では再承認を受けている。「薬」とは何かについて考えるための1冊。

 

メッセージ、エピソード

よ く「薬は毒だ」と言われます。それは正しい事で、どんな薬でも用法と用量を守って初めて「薬」としての効果が得られます。用法と用量を間違えば、効果が得 られないどころか「毒(副作用)」をもたらすかもしれません。しかし残念なことに、理系の知識がないため、「薬は毒だ」の概念ではなく言葉だけを信じ込ん で医療不信・薬不信になってしまい、用法用量を守らない人が多いのです。そこにつけこみ、薬への不安を煽って健康食品や特殊療法を売り込む「民間療法ビジ ネス」も跋扈しています。そこでこの本から、一般的な「サリドマイド怖い」というイメージではなく、「薬は毒だ」の正しい概念を見出してほしいと思います。

 

この本があなたに与えた影響

本の内容が私に与えた影響というにはちょっとずれますが、メディア業界は問題が多いなと思うようになりました。
この本を読んだ頃に、名古屋大学の野依良治先生が不斉合成法の発明でノーベル賞を受賞しました。不斉合成法とは化合物光学異性体のR体とS体を選り分けて 合成する技術のことですが、メディアが野依先生の功績を紹介する時に「事件当時サリドマイドには危険なS体が入っていたので薬害が起きた」と説明していま した。実はサリドマイドのR体だけ服用しても体内でS体に変化するので、今も昔もサリドマイドは用法用量によっては危険です。そのことに一言も触れること なく、どこのメディアも判で押したように「サリドマイドの薬害は・・・」というフレーズを付け足すのです。つまり、今のメディアには理系知識・思考がな く、誰かの書いたコピーをみんなが真似してしゃべる/書くだけです。この当時私は出版社にいて、メディアへの失望感を胸に、動物薬業界へ転職してしまいま したが、今度は宮崎の口蹄疫禍に際してメディアの伝える内容にはイライラしてしまいました。
特にメディア業界について、一般人と理系の間には暗くて深い知識の谷間があると思うので、そこを埋めるタイプの理系が多くなってほしいなあと心底願っています。

 

 

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2013年 3月4日

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